目の前で「最近、やる気が出て来たんですよ。」と、

そう笑顔でいう目の前の方には、

顔に疲れはあるものの、

以前のような自信のなさや、

どこかあった声の弱さが聞こえない。

 

そんな人を目の前にして、

躁転かも…。」といったことがまず頭によぎりました。

躁転とは、抗うつ薬を服薬中に鬱状態から転じて、

躁状態になることです。

 

躁状態では急にやる気が出来たり、

活動レベルが上がり、食欲・性欲なども上がり、

頭もうつ状態のようにどんよりせずにスッキリして、

ある種のちょっとした高揚状態になる方もいます。

 

こうなると大変なのです。

 

今まで鬱状態だけだったのが、

躁状態が加わり、

気持ちのアップダウンが出てきてしまうからです。

 

良くなった!

と思ったのに、

一気に鬱状態になり、

やっぱりダメなんだ…。

という衝撃は、

うつ状態がずっと続いていた時よりもとても強く、

少し海面から顔を出せたと感じたが故に、

その時に空の青さが見えただけに、

また深く海の奥底に潜り、

光が見えなくなってしまったようで、

とてもとても苦しいのです。

 

よくよく聞いていると、

その方は今まで躁状態になったことはなく、

以前の鬱の話を聞いても、

躁状態はなかったことや、

今の良い状態の時に、

無理のない範囲でセーブしながら行動が出来ていることや、

その状態になる前に

これまで頑張ってきた自分を許し始めたことや、

これまでがむしゃらに走ってきたが、

立ち止まることを覚えて、

これまで振り返る機会がなかった自分の人生を

振り返り始めていたり、

ご家族との関係の改善が見られたりと、

色々な点で以前から改善がみられていました。

 

そこで1ヶ月程度様子を見ましたが、

鬱状態に戻る兆しはありません。

 

勿論、長期的に見る必要がありますが、

僕はドクターではないので診断が出来ません。

 

人の人生が関わる事ですから、

慎重になるに越したことはありません。

 

それは理解しています。

 

一方で、目の前で本人が最近調子がよくて、

こんなことも始めたんです。

ということや、

立ち止まらなければ、

こんな時間なかったと思います。

と笑顔でいう姿を見て、

ドクターでもないので、

「躁転かもしれないですね。

なんて言えませんし、

「鬱状態や服薬していると一時的にそうなる事があるから、

油断しないでくださいね。」

なんてことを伝えて不安をあおるおともできません。

 

現にちょっとだけ急に自分の状態が良くなった感じがしているので、

「これがいつまで続くのか。薬のおかげなのか?」という、

そんな不安を抱えていましたらから、

「やっぱり…。」と結論を出すには早いですし、

躁転かも…。」という意識を心の隅で持ったまま、

その思いにひっかかり、

これまでの頑張りすらも見れなくなり、

これまで自分が変わってきたことすら見えなくなってしまったとしら、

それこそ希望が無くなってしまう。

 

何が正しいかは、分かりませんでしたし、

今もわかりません。

 

でも僕は、

目の前で話す人の声や表情の違いや、

これまで出てきた心の癖が出なくなってきたこと、

支えが増えて、

今一人じゃなくなってきたこと、

未来を見始めたこと、

それを苦しんで手にした、

今その手にある希望を、

その人を信じたかった。

 

だからその目の前の人が変わってきていることを、

”注意してください。”という代わりに

伝えることにしました。

 

”まだわかりません。”という代わりに、

”順調にいっていると思いますよ。”と伝えることにしました。

その証拠を沢山包んで伝えて。

 

そして最後に、”油断しないでくださいね。”

と伝える代わりに”まだ体も本調子じゃなく心配なので無理だけしないでくださいね。”

と伝えて。

 

でも、まだわかりません。

 

それでも、やっぱり信じたい。

 

良くなっていること。

目の前の人を信じたい。

 

カウンセリングをしていると、

どこを見つめればいいのかいつも迷います。

 

病理を見るのか、人を見るのか。

 

僕はどこを見たいのか。

どこを見るべきなのか。

 

何が目の前の人の希望になるのか。

 

その答えはいまだに出ないけれど、

それでも希望を見たいと願うのでした。

・JCA カウンセリング・傾聴スクール 講師 
・カウンセリングルームこころ音 カウンセラー
元引きこもりのカウンセラー。現在は講師として、毎週(土)講義を行う。
都内のクリニックでカウンセリングも行っている。