「まずは相手と信頼関係を築きましょう。」

カウンセリングやコミュニケーションを学んでいると、

この言葉をよく耳にしますよね。

 

この信頼関係はなぜそんなに大切なのでしょうか?

それは、シンプルに言うと、

信頼関係を築いてないと、なかなか援助が上手くいかないことがあるからです。

 

特にカウンセリングでは、

心の深い部分を取り扱っていくことが多いですから、

その深い部分を相手に話してもらったり、

相手が自らその心の深い部分に気づいていったり、

その奥にある気持ちをしっかりと吟味できるように援助することが大切なのです。

 

そういった援助をして、心と向き合い、

心の癖や気持ちのわだかまりを解消していくお手伝いをしていくわけですが、

相手が肝心のその心を閉ざしたままですと、

そのお手伝いが上手くいかないのです。

 

信頼できない人に対しては、人は自分の本音を人は話さないものですし、

信頼して安心できる関係性が気づけなければ、

ゆっくりと自分の心と向き合うことも出来ないのです。

 

ですから、カウンセリングやコミュニケーションでは、

信頼関係が大切ですよと言われるのです。

 

さて、この信頼関係を相手と築いていくことをラポールを築くと

カウンセリングでは呼びます。

 

このラポールとは、フランス語で「架け橋」という意味です。

 

カウンセリングを学んだことがある方や、

コミュニケーションを学んだことがある方なら、

一度や二度聞いたことがあるのではないでしょうか。

 

今日は、相手を心理的に援助する際に大切な

この「ラポール」についてお話をしていきますね。

ラポールとは正確に言うと、信頼関係ではない。

さて、ラポールとは先に書いたように日本語で

「信頼関係」と訳されることがあります。

 

ただ、これは実は正確な表現ではありません。

 

というのも、ラポールとは本当は

「お互いに安心して感情のやり取りが出来る状態」

のことを指すからです。

 

つまり、

自分も相手も安心を感じている状態であること、

且つ互いに感情のやり取りが出来る状態であることです。

 

この状態になると、「なんだかこの人は信頼できるな。」と、

その安心感や受け止めてもらえるような感じを、

人は「信頼関係」と感じることが多い為、

ラポールは、信頼関係ですよと訳されることが多いのです。

ラポールの築き方

では、どのように相手とラポールを築いていけばいいのでしょうか?

それには、あなたがどのような人なら安心して話せるか、

信頼できるかな?と考えて頂くと役に立つと思います。

 

例えば、安心して話せる人というのは、

何となく会話のリズムやペースが似ていたり、

テンションが合っていたりしますよね。

 

このように何となくコミュニケーションレベルで、

同じようなペースやテンションで話してくれる人や、

聞いてくれると話しやすいのです。

 

それはなぜかというと、

相手が自分の会話のリズムやテンポ、気持ち等の状態と

似たような状態で聞いてくれたり話してくれると、

あまり気をつかわないで普段の自分の状態で話ができるからです。

 

つまり相手のテンションに合わせるのでもなく、

話が早すぎるかな?とか気をつかうこともなく、

限りなくいつもの自然体な自分の状態でコミュニケーションを取れるのです。

 

カウンセリングでもこのような状態で相手に話をして欲しいわけなのです。

 

その為、こういった状態を作りだせるようにカウンセラーは工夫をするわけです。

その工夫が「ペーシング」という言われる技法です。

 

ペーシングとは、

相手の声のトーン・リズム・テンポ、表情、呼吸、状態などの非言語を合わせることです。

 

相手の非言語に合わせることで、

少しでも安心してコミュニケーションができるように工夫をしていくのです。

 

例えば、「最近朝起きられなくてつらいんです…。」と相談に来た方がいたとします。

その方がその言葉を声のトーンは低く、

とてもゆっくりとその言葉を語ってくれたとします。

 

その時に援助側がとても速い声で、且つ声のトーンも高かく

「朝起きられなくてつらいんですか。何があったかお話頂けますか?」

と言ったとしたら、ちょっと急かされている印象があるかもしれませんし、

自分も早く早なさないといけないのかな…と感じるかもしれませんよね。

 

このように相手が感じてしまうのは、

非言語のコミュニケーションが相手とズレているからです。

 

ですからこういった場合は、相手と同じような声の速度と、

相手よりも少しだけ元気な声のトーンで話しかけることで、

相手が余計なことに気を遣わずに、

自分の話がしやすいように援助することが大切なのです。

(ちなみに少しだけ元気な声のトーンで話す理由は、

声のトーンを相手に合わせすぎると、

落ち込んでいる場合は、このカウンセラー大丈夫かな?と、

逆に心配されてしまうことがあるからです。)

基本ではあるが、受容はラポールを築く上でもとても大切。

では次にどんな人が話易いでしょうか?

それは、きちんと自分の気持を受け止めてくれる人ですよね。

 

せっかく話したのに、否定されたり、

聞いてくれなかったりすることは間々ありますよね。

 

この受容ですが、どの気持ちを受容するのか?

ということも実は大切です。

 

例えば、「会社を辞めたいんだけど、今の仕事は働いている人にお世話になったし…。」

と迷っている方がいたとしましょう。

その時に、「そっか。会社を辞めて新しいスタート切りたいんだね。」と、

会社を辞めたい方だけを受容した場合、

「いや、そうだんだけど。今の会社の仲間にはかなり助けられてていてさ。もっと一緒に仕事をやりたいなって気持ちもあるんだよ…。」

となる場合があります。

 

つまり、片一方の気持ちだけを受け止めると他の気持ちが騒ぐ場合があるのです。

これは、「お世話になり、感謝やチームワークを大切にする気持ち」の方だけを受容しても、

結果は同じになる(辞めたい方の気持ちが騒ぐ)場合が多いのです。

 

人は色々な気持ちを同時に抱いていますから、

受け止める時も、片一方だけの気持ちを受け止めるのではなく、

両方受け止めた方がいい場合が多いのです。

 

その為、両方受け止める場合は、

「そっか。会社を辞めたい一方で、お背になった方とまだまだ仕事をしたい気持ちもあるんだね。」

といったような形になります。

 

僕たちは、受け止めているようで実は一方の気持ちのみを受け止めている場合がありますが、

その人の中にある様々な気持ちをまるっと受け止めることも

受容においてはとても大切になるのです。

 

※ただ、勿論相手を力づけるコミュニケーションが大切になる時もありますから、

その時は相手に一方の気持ちを応援することになります。

相手の思いを汲みねぎらう。

さて、受容の話をしましたが、

受容も勿論話を聞く上では大切ですが、

コミュニケーションにおいては相手の気持ちを受け止めるばかりではなく、

受け止めた気持ちの奥にある気持ちを汲んだり、

積極的に相手の気持ちを汲んでいくというコミュニケーションもあります。

 

カウンセリングや心理的な援助をする場合は、

受け止めるだけでなく相手の気持ちを汲み、

相手の気持ちを労わっていくことも大切なのです。

 

それが「ねぎらい」です。

 

ねぎらいと褒めることは違います。
(具体的な違いは、こちらの記事をご覧くださいね。)

ねぎらいは、相手の一番わかって欲しい気持ちに言葉を届けることです。

 

相手がまだ言葉にしていない気持ちをこちら側が汲み取り、

これまで歩んできた人生やその思いや、その苦労に思いを馳せ、

その労を労わる。

 

そんな言葉がけがねぎらいです。

 

そんなねぎらいの言葉をあなたは掛けてもらったことがありますか?

 

ねぎらいの言葉を掛けられると、

心が解けていくような、

心にじーんと震えような感じがして、

それまで感じていた苦しみだけでなく、

心の奥から温かい何かが湧き上がってくるような、

そんな感じがします。

 

そして、その言葉を届けてくれた方の思いにも触れ、

なんだかとっても信頼できるなと感じ、

安心感を感じるものなのです。

 

ねぎらいの言葉は例えば、

一生懸命に頑張っているのに誰も分かってくれなくて、

一人で孤独を抱えながらもなんとか仕事を続けてきた方に、

「頑張っているのに分かってもらえない辛さ。

そしてその辛さを分かち合える人がいなく、

その気持ちも分かってもらえない寂しさをずっと抱えてこられたのですね。」

「そんな中でよく頑張ってこられましたね。」

といったような言葉です。

 

このように一生懸命に頑張って生きてきた人生に思いを馳せて、

言葉を丁寧に掛けていく。

相手の思いをくみ取って、言葉を掛けていく。

 

そんなねぎらいの言葉も、相手と信頼関係を築く上でも大切ですし、

何よりも懸命に生きてきた目の前の方に対して、

ただ聴くだけではなく、

労わりながら接していく。

 

そんな関わり方がとっても大切なのです。

 

では、どのようにねぎらいの言葉を掛けたらいいのでしょうか?

労いを掛ける上で一つ大切になってくる能力があります。

それは想像力です。

 

相手の人生に、相手に思いを馳せる力です。

 

今日はその想像力を磨く視点をいくつかご紹介しますね。

 

思いを馳せる時の視点を書いておきます。

想像力を磨く視点。

思いを馳せる時の視点を書いておきます。

・何が起きたのか?(what)
・どのように◯◯だったのか、したのか?(how)

・なぜそういう気持ちになったのか?(why)

・本当はどうしたかったのか?(期待)
・本当は相手にどうしてほしかったのか?(相手に対する期待)
・その期待は叶ったのか?叶わなかったのか?
・その期待はどれ程その人にとって大切だったのか?

・その期待を抱いた理由や背景は?

・本当に◯◯したかったか?
・◯◯しなければいけなかったか?
・しなければいけなかったとしたら、その理由や、強いられた環境要因はなぜか?

・本当に◯◯したかった思いはどれ程強かったか?

・どうやって今まで乗り越えてきたのか。

・周りに相談できる人はいたのか?
・いたとしても、ちゃんと受け止めてもらえただろうか?
・一人で抱えてきたのか?

こういった視点が相手をねぎらう上では、とても大切になります。

そして、このような視点の下で相手に思いを馳せて声をかけていくのです。

共通の話をする。

では、次のポイントです。

次は相手と共通点を見つけるということです。

人は、自分と共通点が多い人に対して親近感を感じる傾向があります。

地元が同じだったり、学校や趣味が同じだったりすると、それだけでも話が盛り上がったり、親近感を感じることも多いですよね。

「え?同じ大学だったの?本当に!?」

といったように、驚くと共になんだか同じ仲間のように感じるのです。

ラポールを形成していくにあたっても、

この視点が役に立ちます。

 

それは、相手と共通点を探して、

そのお話をしていくということです。

 

趣味の話でもスポーツの話でも、

お仕事でも、地元の話でも、

家族のお話でも何でも大丈夫です。

 

共通点を見つけてそのお話をしてみましょう。

相手の価値観を大切にする。

さて、いよいよ最後のポイントです。

最後は相手の価値観を大切にすることです。

人が信頼できるなと感じる人は、自分を応援してくれる方だったり、自分が大切にしているものを大切にするしてくれる人だったりしますよね。

 

たとえ趣味などが合わなくても、

相手が大切にしている趣味を

尊重することはできますよね。

 

そして、自分の趣味や大切な時間や、

大切にしている価値観を尊重してもらうと、

とても嬉しいものですし、

なんだか自分自身まで尊重してもらったように感じるものです。

すると、なんだかこの人は信頼できるなとか、

この人ならわかってくれるかもしれないと、

相手が感じることがあるのです。

 

その為、先程共通点を見つけるという話をしましたが、

たとえそういった共通点を見いだせなくても、

相手が大切にしているものを自分も大切にすることや、

相手自身を尊重することはできますし、

そういったことから信頼関係を築くことも出来るのです。

 

また、こういった姿勢はラポール形成に限らず、

人と接する上でもとても大切ですよね。

 

では、どのように相手が大切にしている価値観を、自分も大切にすることが出来るでしょうか?

その最初の一歩は、相手の行動をよく見ることです。

人の行動には価値観が表れています。

 

例えば、旅行でスケジュールをつめない方は、「気ままさ」「余裕」「その時々の時間を大切にしたい」などの価値観を大切にしているかもしれません。

また、スケジュールをつめて一緒に行ける場所に沢山行こうとする方は、「楽しい時間の共有」「新しいもの」「活動的な時間」「行動=リフレッシュ」という価値観を大切にしているかもしれません。

このように、行動にはその人の価値観が表れています。

ですから、そういった相手の行動を見て、その裏にある価値観を汲むことも大切なのです。

 

とはいえ、こういったことは最初は難しいかもしれません。

そういった場合は、質問で相手が大切にしている価値観を聞くこともできます。

例えば、

「旅行で一番大切にしたいことって何?」

とか、

「仕事でいつもこれだけはしようと心がけていることって何?」

「◯◯で大切にしていることは何ですか?」

「どういった理由で◯◯(行動)したの?何か理由があったんでしょ?」

こういった質問をすれば、相手が大切にしているもの(価値観)が出てきます。

それが出てきたら、それに共感をしたり受け止めたり、

あなたも相手と同じようにそれを大切にしてみる。

そんなコミュニケーションもとても大切なのです。

まとめ

このように相手とラポールを形成して行くには、

様々なアプローチがありますが、

これならやれそうだというものから

取り組んでみてくださいね。

 

また、こういったテクニックや知識を学ぶと、

本来の目的を忘れてしまうことが間々あります。

 

ですから、そもそも何で相手とラポールを築きたいのか?

という所を忘れずに、取り組んでみてくださいね。

・JCA カウンセリング・傾聴スクール 講師 
・カウンセリングルームこころ音 カウンセラー
元引きこもりのカウンセラー。現在は講師として、毎週(土)講義を行う。
都内のクリニックでカウンセリングも行っている。