あなたはオウム返しという言葉を聞いたことがありますか?
傾聴では、とても有名なスキルの一つですから一度は聞いたことがあるかもしれません。
簡単に言うと相手の言葉を繰り返すことです。
「昨日さ、映画見に行ったんだ。」
「映画見にいったんだ。」
といったように単語や語尾を繰り返すことをオウム返しといいます。
これは傾聴という聴くスキルの一つです。
よくこのオウム返しが”うまく”できるようになると、
相手がどんどん勝手に話してくれるんですよ。
ちゃんと聞いていると相手に示すことで、相手が受け止めてもらったと感じるんですよ。
そんなことを本やインターネット・講座などでも学んだことがある方もいるのではないでしょうか。
僕自身カウンセリングを学び始めた頃、いろんな講座でオウム返しを学び、その練習をしたこともあります。
でも、このオウム返しを練習してもあまりコミュニケーション力は上がりません。
それどころが逆に不自然な感じがでてしまうことがあります。
それが、巷で言われるオウム返しをされると逆に「うざい」とか、「イラつく」といったことに繋がっているのだと思います。
では、このオウム返しは本当に効果がないのでしょうか?
実はそんなことはありません。
あなたもきっとこんな経験があるはずです。
自分が感じたことを相手が繰り返し言葉にしてくれたその刹那、
「そうそう!そうなんだよ。」と感じたことが。
そう、このようにオウム返しは上手に用いることができれば、
上手く働くのです。
ただ、その為には「何の為にオウム返しをするのか?」というその目的と、
実際の現場ではどのように使うのかの両方を理解する必要があります。
そこで今日はこの「オウム返し」の目的と、
現場ではどこを繰り返しているのか?
ということをお話していきます。
オウム返し成立の背景。
さて、最初にもうちょっとだけ詳しくオウム返しを説明しましょう。
そもそもオウム返しというのは、カール・ロジャースさんという方が創った来談者中心療法というカウンセリングの流派があり、そこの中で応答技法の一つとして用いられていました。
この療法は、性善説(人は生まれながらにして善である。)に立つロジャースさんの考えを色濃く反映していました。
それはどのような考え方かというと次のような考え方です。
「目の前のクライアントには自ら良くなる力がある。だから私たちカウンセラーは、クライアントが自分との対話を通して、心の中にある自らの力に気づき、自己実現へと向かっていけるように援助していくんだ。」
という考え方です。
こういう立場に立ってカウンセリングをしてたロジャースさんは、アドバイスをせず、カウンセラーが鏡のようになりカウンセリングを行い、自己内部対話が進んでいくようにサポートしていこうとしたのです。
そして、その為にはカウンセラー側が自己一致状態といって等身大の自分でいることや、相手を無条件に受け入れること、共感的理解を示すことなどの条件があって、それを満たしていけば人は悩みから抜けて、自らの道を歩んでいくのだとロジャースさんは考えたのです。
傾聴という応答技法が成立した背景には、こういったロジャースさんの考えや、人に対する絶対的な信頼があり、その態度を持った上で人と関わっていたのです。
ですから、そういった聞き手側の態度(等身大の自分でいること)や、コミュニケーションで大切な相手を受け入れていくという態度を示すこと、相手の気持ち共に感じようとし、それを言葉にしていく共感という土台がとても大切だと考えていたのです。
こういった基本的な土台の上に相手の心に耳を傾けて聴く傾聴が活きてくるのです。
ですから、こういった態度なくして傾聴のスキルをいくらやっても効果は実はあまりないのです。
そして、そういった態度を度外視して、傾聴のそういった技法的側面ばかりが世に広がることをロジャースさんは憂いていたのです。
今の日本はそんなロジャースさんが憂いていた状態に近いかもしれませんね。
ただ、聴く態度を身につけるには時間がかかりますし、相手を受け入れることや共感を示していくことの方が、簡単にできるスキルを学ぶよりもずっと時間がかかりますし鍛錬が必要ですから、こういった今の現状になることも個人的には納得です。
人は時間を掛けるよりも、目先のすぐに出来ることの方へと目が行きやすいですしね。
さてさて、ちょっと話が脱線しましたが、何となく成立の背景はご理解頂けましたでしょうか?
傾聴においては、聴く態度が大切なのであって、スキルが大切なわけではないのです。
そしてそのスキルも相手が自分の内面と上手に対話ができるように、聞き手側が鏡となって相手の自己対話を邪魔しないようにデザインされていたものがほとんどで、「オウム返し」のスキルもその一つなのです。
では、オウム返しにはどのように効果があるのかみていきましょう。
オウム返しの効果を知り有効に使おう。
さてさて、では次にご説明するのはオウム返しの効果です。
この効果を知らないと、何の為にオウム返しをするのかもわからず、とりあえずオウム返しをすることになってしまい、結局会話がぎこちなくなってしまいます。
ではでは、オウム返しにはどのような効果が”期待”できるのでしょうか。
➡オウム返しの効果
1…聞いてもらってる/分かってくれていると相手が思ってくれる。
2…相手の口から自分の言葉を客観的に聞くことで、気づきにつながることがある。
3…相手と同じ言葉を基本的に使うので、コミュニケーションのずれが少ない。
などの効果が”期待”できます。
1の補足
聞いてもらっていると相手が思ってくれるのは、自分が話した語尾や単語を繰り返してくれるからです。
自分がいったことを繰り返してくれると、聞いてもらっている感じがすることが多いですよね。
2の補足
人は言葉にしながら自分の気持や考えを整理していきますから、
相手が自分の言葉を繰り返してくれることで、自分の言葉を客観的に聞く事ができますから、
「あ、自分はそんなことを考えていたんだ!」なんて思って、自分の考えや気持ちが整理されることがあるのです。
3の補足
コミュニケーションのズレが少ないというのは、コミュニケーションギャップの話しです。
例えば、相手が「いや~仕事が辛いんだよね…。」と話してくれた時に、
あなたが「そっか。大変なんだね…。」と言い換えた場合、
相手から「いや、大変ではなく辛いんだよ…。」と言われてしまうかもしれませんよね。
すると、相手に「分かってくれていない…。」という印象を与えてしまうこともあります。
このようなコミュニケーションギャップは実は多かったりしますから、
オウム返しをすることで、そのギャップを少なくする効果もあるのです。
僕たちは実は、自然とオウム返しをしているが…。
さて、このオウム返しですが、実は僕たちは自然と日常会話の中でやっているのです。
ちょっと例を挙げていきましょう。
話し手:「今日は、雨で嫌な気分だね。」
聞き手:「そうだね、雨って嫌な気分になるよね。」
といったように、下線がオウム返しをしているところですね。
こういった会話って自然とやっていませんか?
「いや~仕事つらいんだよね。」
「いやぁ、お前の仕事はつらいよ!」
とか、
「ディズニーに行った!」と相手が言えば、
「え?ディズニーに行ったの!?いいな~!」
といったように自然とやっているのです。
このように思い出してみると、そんなに悪いスキルだとは感じなくないのではないでしょうか?
あれ?僕だけだったらごめんなさい…。
さてさて、こういったように自然と僕たちは実は会話の中でしているわけですが、日常会話でうざいと言われてしまうのは、繰り返しだけで終わってしまうからです。
つまり「ディズニーに行ったんだ!?」という例であれば、「ディズニー行ったんだ。」だけで終わってしまうような場合は、あまりよくないということです。
人が話をするのは、気持ちが動いた時ですから、あなたに話をするということは何か気持ちが動いたからです。
ですからその気持ちを聞いてくことが大切になってきます。
それなのにも関わらず、ただ語尾や単語だけをオウム返しをすると、相手が話してくれるまで会話が止まってしまいます。
もしそうなった場合、相手からすると「え?リアクション薄い。」となったり、「繰り返しただけじゃん。聞いてくれないの?」となってしまうことがあります。
ですから、会話が止まってしまうような場合は、「オウム返し+質問や共感・受容・ねぎらい・褒める」などのコミュニケーションを付け加えていくことが大切です。
これは、現場でもそうです。
カウンセリングの場面では、相手が自ら話してくれない場合もありますから、カウンセラー側が言葉を繰り返すだけだと、話が止まってしまいますし、往々にして言葉数が少ない方というのは、事実だけを語りあまり気持ちも言葉にしてくれないことも多いのです。
そんな時は、オウム返し+質問・共感・ねぎらいなどのコミュニケーションを行っていきます。
さて、勘の良い方はもう気づいたのではないでしょうか?
そうです。
オウム返しだったり要約だったり、感情反射だったり傾聴のスキルは基本的に自ら話してくれる人に対しては有効だが、自らあまり話してくれない人には別の対応が必要なのです。
口数が少なかったり、あまり自ら話をしてくれない方に、オウム返しばかりを繰り返したとしても会話は進みませんよね。
そういった方とは、まずは関係性を築いていくこと。
そして、関係性が出来てきたら受容や共感を多めにしたり、思いを汲むというコミュニケーションが優先されるのです。
「プチまとめ」
・傾聴は聴く態度があって初めて意味を成す。
・実は僕たちは、オウム返しのスキルは日常的に僕たちは自然と使っている。
・人が話をする時は、心が動いた時。
・だからこそ、繰り返すだけではなくプラスワンをして会話を展開していきましょう。
・口数が少なかったり自ら話をしてくれない方には、まずはあなたのことを信頼してもらえるような関係性づくりから。
・関係性が出来たら、オウム返しよりも気持ちを積極的に受け止めたりくみ取るコミュニケーションが大切。
・傾聴のスキルは、自ら話してくれる方には有効。
どこを繰り返すかで会話の流れが変わる。
では、現場で実際にどのようなにオウム返しを使うのでしょうか?
その辺りのポイントをご紹介しながら、上手にオウム返しを使い、コミュニケーションアップに役立ててくださいね。
一つ目は、「繰り返すポイントを変えることで流れを変える」です。
例えば…。
話し手
「いやぁ、今の会社辞めようか続けようか迷っているんだよ。」
「でもさ、やっぱり今の会社続けていっても先がないし…。」
聞き手
「辞めようか続けようか迷っているんだね。」
という会話がったとしましょう。
この時、
迷っていることを繰り返すこともできます。
そして、こう繰り返す事も出来ます。
「やっぱり続けていっても先がないって思っているんだね。」
というように、続けても今後の未来はそこない。
と思っている気持ちをオウム返しすることもできます。
このように、どのポイントをオウム返しするのかで、会話の流れが変わってくるのです。
迷っている気持ちをオウム返しするのか、続けても・・・という気持ちをオウム返しするのか、それによって今後の流れが変わることがあります。
二つ目は、「葛藤の気持ちを両方とも繰り返す」です。
一つ目で相手の言葉のどこを繰り返すかで流れが変わるとお話をしましたが、人が葛藤している場合においては、片一方だけの気持ちを繰り返すともう一方の気持ちが騒いできてしまうといった場合があります。
先の例でいうと、前述のように「やっぱり続けていっても先がないって思っているんだね。」とオウム返しをした場合に、「続けたい」気持ちが受け止められていないと騒いでしまうことがあるのです。
ですので、「やっぱり続けていっても先がないって思っているんだね。」というフィードバックの後に、「そうなんだよ。先がないんだよね…。だけどさ今の会社もそんなに悪い会社じゃないんだよ。給与だっていいし、仕事も定時で帰れるし…。(続けたい気持ちの方を語る)」といったように、続けたい気持ちを多く語る場合があるのです。
ですからそういった場合は、「そっか会社を続けたくて辞めたくもあるんだね。」と両方ともオウム返しをしていくことが役立ちます。
そして、前述したようにオウム返し+質問・ケア・受容・共感をしていきます。
「そっか会社を続けたくて辞めたくもあるんだね。(オウム返し)
そういう風に思うようになったわけをもう少し詳しく教えてくれるかな?(質問)」
「そっか会社を続けたくて辞めたくもあるんだね。(オウム返し)
会社を辞めようかどうしようかというのは迷うようね大きな決断だもの。(迷う気持ちを受容)」
「そっか会社を続けたくて辞めたくもあるんだね。(オウム返し)
話してくれてありがとね。(話してくれた気持ちを受容)」
このように両方とも繰り返した上で、プラスワンをしていきます。
三つ目は、「オウム返しで相手が言ったことを強調する。」です。
これは、僕の先生がよく行っているテクニックです。
クライアントの言葉を意図的に強調して繰り返すのです。
例えば、「もう本当は嫌なんです…。」と相手が語った時に、
「そうですよね!もう嫌ですよね!」
といったように、わざと強調というか誇張をしてオウム返しをします。
そうすることで、相手の気持ちにより強く訴えかけることが出来ますし、
相手の言ったことをに対して、くさびを打つことが出来ます。
くさびを打つとは、相手の言葉に対して釘を打つという意味で、
強く自分が語った言葉を意識してもらい、その気持ちにとどまってもらったりすることです。
カウンセリングでいう直面化にも近いでしょうか。
自分と対峙すると言った方が分かり易いかもしれませんね。
そうすることで、より自分と向き合うことが出来ますが、
これはちょっと上級テクニックです。
初心者の方は、まずは以下の所を入口としてオウム返しをして頂いた方がいいかなと思いますので、そのポイントをさらっていきましょう。
オウム返しのポイントーどこを繰り返したらいいの?ー
さて、では最初はどこを繰り返したらいいのでしょうか。
人それぞれどんなことを理解して欲しいかも違いますし、その時にどんな気持ちなのか?
も違いますから、一概にこれを繰り返しましょうとは言えません。(汗
だから、どこかれ構わずに最初は”繰り返す”ことも大切です。
ただ、”安全な指針”はあります。
それは以下の3つです。
1.気持ちがのっているところを繰り返す。
2.ネガティブなことはあまり繰り返さない。
3.相手が理解して欲しいところを繰り返す。
4.オウム返し+質問・受容・共感・ねぎらいを意識する。
最初はこの4つの指針に沿ってオウム返しをしてみて下さい。
ちなみに、ネガティブなところはあまり繰り返さない。
というところですが、この逆のポジティブな面だけ繰り返しても、
相手が息苦しさを感じる時がありますから、
相手のその時の表情・声のトーンなどの非言語を見つつ、
コミュニケーションを取ってくださいね。
最後に、これは僕の個人的な意見ですが、カール・ロジャースさんはオウム返しだけをしていたわけではなく、言葉を正確に伝え返すことを心がけていたわけでもないと僕は感じています。
積極的に言い換えもしていますし、相手の意図を汲みとりその気持ちに対して言葉を多く繰り返していたように感じます。
語尾の正確性よりも、如何に目の前の人の気持ちに沿った言葉を掛けられるのかが大切だと、ロジャースさんの逐語録(カウンセリングの場面を文字に起こしたもの)を読んで感じるのです。
なので、皆さんもオウム返しの形に囚われるのではなく、ゆくゆくはご自分なりに相手の気持ちに目を向けて、相手の気持ちに対して相手の世界の言葉で伝え返す事が出来る様になって頂きたいなと秘かに僕は思っています。
当スクールでもそういった思いを持って傾聴をお伝えしています。
その為、傾聴という応答技法の練習よりも、目の前の人を如何に理解し言葉を掛けていくのかに重点を置いています。
もしよろしければお越しくださいね。