思考が強い人には、感情を言葉にする練習を。

相手が取り組める範囲で援助をする

とある方との初回面談のお話です。

 

彼の事が忘れられないという方に対して、

一通りお話を聴き終えた後、

僕は自分の事を労わってもらおうと、

エンプティチェア・テクニックを用いて、

こんな取り組みをしました。

「椅子が2つあります。

一つは悲しんでいる私。

もう一つは今の私です。

どちらがどっちでも構いませんので、

ご自分で決めて下さい。」

(右の椅子が悲しんでる私。

左の椅子が今の私になりました。)

 

そして僕はこう伝えました。

「では、今の椅子に座ってください。

その今の椅子から見ると、

悲しんでいる自分はどのように見えますか?」

すると、その方はこう答えました。

「とっても悲しそう、うずくまって寂しそう。」

そういいながら、涙を流しました。

 

そして、僕はこう続けました。

「目の前の彼女は、とっても大変な思いをしてきました。

そんな彼女に対してなんて声を掛けてあげたいですか?」

と。

すると、「辛かったね。辛いね。」と、

さらに大粒の涙を流しながら声を届けました。

そこで、止めておけばよかったのですが…、

僕は、悲しんでいる私の椅子に彼女を移動させ、

そのメッセージを受け止めてもらう事にしました。

すると、悲しい気持や寂しい気持ちが溢れてきて、

うずくまってしまい、

メッセージを受け取るどころではなくなってしまいました。

そう、感情の波に押し流されてしまったのです。

あの手この手で、何とかしようとするも空回りし、

いろんなことを思い出し、

自分のふがいなさや、

会えない悲しみや、

どうしようもない寂しさに飲み込まれ、

しばらくずっと泣かせてしまう結果になってしまいました。

少し落ち着いた段階で労い、

深呼吸をしてもらい、

体を動かしてもらうも、

もう後の祭りです…。

 

僕の未熟さがその方の心の傷をさらに深めてしまいました。

 

大いなる反省と共に、

今でも思うことは、

「安全に思い出せること」

「安全に取り組めること」から

なぜ始めなかったのかということです。

お話を聞いていたり、

カウンセリングの技法を用いると、

心の核心へと触れることができます。

ただ、それにも時期が大切ですし、

タイミングが大切です。

 

医者が傷を負ったという方に対して、

傷の”周辺”から触診をしていって、

「この辺りは痛いですか?」

「ここはどうですか?ではここは?」

と徐々に中心へと辿っていくように、

カウンセリングも、お話を聴く時も、

そのようにすべきなのです。

 

悲しみと向き合うことも大切です。

ただ、向き合うにも、

目の前の方が”今”向き合えることに細分化して、

向き合ってもらう。

そして、悲しみをいきなり思い出すのではなくて、

レジリエンス(立ち直る力)を高める為にも、

まずは、安定している自分を思い出してもらう、

巻き込まれていない自分を思い出してもらう、

そんな所から始めることも大切な援助です。

僕がしたのは、

いきなりフルマラソンを走らせるようなものです。

フルマラソンを走るのなら、

まずは体のストレッチや、

ウォーキングから始めることが大切なのにです。

 

これを読んでくれているあなたは、

僕と同じようなことはせず、

安全に取り組める範囲から、

相手が安全に話せる範囲から、

安全に思い出せる範囲から、

お話を聴いたり、

是非丁寧に関わって下さいね。

 

相手に安心して取り組んでもらう為にも。

・JCA カウンセリング・傾聴スクール 講師 
・カウンセリングルームこころ音 カウンセラー
元引きこもりのカウンセラー。現在は講師として、毎週(土)講義を行う。
都内のクリニックでカウンセリングも行っている。