エンプティ・チェア・テクニックという技法が、
ゲシュタルト療法というカウンセリングの流派の一つにあります。
日本語に訳すと「空き椅子の技法」と呼ばれて、
誰も座っていない椅子を用意して、
その椅子にクライアントのテーマと関係する人、
本人の気持ち、過去の自分、未来の自分、今の自分、
自分の心の痛み、会社などの対象を置く場合もあり、
兎にも角にも様々な対象を空き椅子にいるor座っているとイメージしてもらい、
臨場感を高めながら、ご本人の心の中の葛藤なりを椅子で表現してもらうのです。
そして、その椅子に実際に座ってもらって、
思いのたけを言葉にしてもらったり、
相手の椅子に座ってみてどう感じるか、
何か言葉にしたいことはあるか等、
様々な取り組みを通して、
心の中の葛藤を解消したり、
今後の進む道を援助したりする際に用いるのです。
さて、僕は、割とこの技法をよく労いをする時に使います。
傷ついてきた自分が目の前の椅子に座っているとイメージしてもらって、
座ってもらいます。
そして労りの言葉を掛けてもらうわけですが、
この時に上手くいくかどうかは、
どれだけ臨場感をもって目の前の自分をイメージしてもらうかということと、
クライアントがその目の前の自分のどこを見つめるかです。
臨場感というのは、
本当に目の前にいると想像してもらい、
その自分を見ると気持ちが動くくらいということです。
なぜ臨場感が大事かというと、
人の脳というのは不思議なもので、
想像と現実の区別がついていないと言われています。
ですから、想像上でもありありと想像すれば、
レモンの酸っぱさを思い出した時に唾が出てきますし、
すっぱいと感じることが出来ます。
すると、現実と同じように体が反応するのです。
「今までのように頑張りたい。」
そう強く願いながらも頑張れない時、
僕たちは葛藤を抱えます。
頑張りたいけど、頑張れないのです。
こういう葛藤を抱えて来た時、
僕たちは、自分に馴染みがある方の声を聞きがちです。
つまり頑張ってきた自分の声を聞き、
その声を聞こうとします。
何故かというと、
頑張ってきた自分が自分らしい自分だからで、
頑張れない自分は、自分らしくないどころか嫌悪の対象にすらなったりします。
でも、その自分らしさと認識していない方の自分が袖を引っ張ってきます。
「そっちに行きたくない。」と。
その時、袖をつかむ手を振り払おうとしても、
なかなかできない時があります。
そんな時は、
袖を振り払うのではなく、
振り返って、
その掴んだ理由を聞いてみることが役に立つことがあります。
エンプティチェアテクニックという技法を用いて、
葛藤を軽減する取り組みをしていた時のことです。
その方が頑張れない自分の椅子に座った時に、
目に涙がたまり、
次第にそれが大きくなり、
静かに涙を流されました。
「もう頑張れない。」
そんな言葉が口から出てきました。
それもそうです。
十分頑張ってきたのですから。
そこで、その気持ちを受け止め労いつつ、
次のように問いかけました。
「もう頑張れない。その理由は何でしょうか?」
するとその方は、
「もう以前のように頑張れない。もう目指す先が前のようにない。」
と語ってくれました。
労いと保証を入れつつ、
次のように問いかけました。
「すると、今までの生き方に限界を感じ、
生き方を変える必要を感じて、今立ち止まっているのでしょうか?」と。
「そうですね。」と静かに語る目の前の方に対して、
次のように質問をしました。
「なるほど。では、どのような生き方に変える必要があると感じているんですか?」
すると、その方はある新しい生き方を答えてくれたのでした。
葛藤している気持ちも、
自分らしくない気持ちも、
それぞれがあなたの幸せを願っています。
苦しい時。
辛い時。
僕たちは、どこかに置き忘れてきたもう一つの気持ちを、
そっと開けるタイミングなのかもしれません。
